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庭先には、世話の行き届いた美しい花々が咲いていた。
艶やかなピンクの花魁草(おいらんそう)、大輪のダリア、薄紫の山蛍袋(やまほたるぶくろ)などが、道行く矢崎の目を楽しませてくれた。
特に目を惹いたのが、山百合(やまゆり)だった。艶(えん)を競うようにして、大輪の山百合が庭々で風に揺れていた。将に花の王者という風格だった。
集落を歩いていると「美しい村」という言葉が、自然と頭に浮かんできた。高級別荘地というイメージを持っていた軽井沢に、こんなに美しい村があるとは思わなかった。歩いているだけで心が癒された。
撮影に没頭していると、いつの間にか日が傾いてきた。
あんまりのんびり撮影していると写真屋が閉まってしまうと思い、急いで車に戻り、写真屋へ向った。
写真を受け取り、ホテル戻った頃には、夕方の6時を回っていた。
終日歩き回って、汗だくになったので、一っ風呂浴びないと、気持ち悪くて仕方がなかった。
部屋に入ると荷物を降ろし、直ぐに風呂に入った。温かいお湯に浸かりながら、酷使した足腰の筋肉をマッサージした。
一日中歩き通しだったので、還暦(かんれき)を迎えた老体には堪えた。明日も、白糸の滝を皮切りに、湯川渓谷を撮影しなければいけない。正直言って、体力的には厳しいなぁ。
今夜は、石墨と飲みに行かないで、ゆっくり体を休めたい…というのが本音だった。
風呂から上がった矢崎は、ふかふかのバスローブをまとってソファーに腰掛けた。
何だか、急に、超豪華な部屋に一人でいるのが寂しくなってきた。こんな時、妻が一緒に居れば退屈せずに過ごせるのにと思った。
ここ数日は、写真撮影に夢中になり、電話も手紙も出していなかった。明日、絵手紙でも書こうかなと、矢崎は、妻の顔を思い浮かべた。
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