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38年ぶりに、一同に会した俺たち、私たちに乾杯!
小さなチャーター船のキャピンの中で、シャンパングラスを高く掲げ、
歓声を上げる男女14人の面々。チャーター船には両玄に
イタリックの横文字で「Tokyo HIKARI Corporate Party Cruiser」と
書かれていた。
パーティ・クルーザーが隅田川を遡上し、
真正面のコバルトブルーにライトアップされたアーチ型の永代橋の先に
高さ634メートルの東京スカイツリーが蝋燭のように浮かび上がる。
フルート型のシャンパングラスに注がれた、淡いピンク色の
ドンペリニヨンのきめ細かい泡。
迫水晶(さこみず あきら)はそれを通してみる、
隅田川のド真ん中からの東京の夜景を愉しみながら、
38年前の想い出に耽っていた。
「じゃあ、乾杯後の挨拶を林田君」
同窓会幹事の岡西みづほは、乾杯の音頭を終えると言った。
「えっ、俺か? 聞いてねえよ。」
林田は独り言のように言った。
「ごめん、即興で気の利いたこと言えるかな。」
林田はしょうがないからグラスを持って立ち「もう一度、乾杯。」
「それじゃあ能がねえだろ」「一言言ってよ。」と野次が飛ぶ。
「じゃあ、カメラの林田秀雄です。対面にいる長谷川信也とは
卒業後も年に一度は会っていたんで、
2人で岡西に結構協力しました。じゃあ乾杯」
「もう一度、乾杯!」の声の中に「本当に一言かよ」の声が交ざる。
「長谷川君と林田君はよくツルんでたものね」
星野直美は隣の迫水に言った。
「ごめん、誰・・だっけ?」
「渡辺直美です」星野は旧姓を名乗った。
「あたしはショウ君、直ぐ分かったわよ。」
迫水は名前から晶→あきらでなくショウ、と呼ばれていた。
「ああ、渡辺さんか。そう言えば居たな、細いのが」
「今も細いです。ショウちゃんは太さに磨きがかかりましたね。」
「ファッションセンスの無さにも磨きをかけた。わけじゃない。
今日は所属している合唱団の演奏会でそのまま来たんだ。バッグには礼服が入ってる」
迫水はそう言うと、デッキに上がろうとした。
直美がウザかったわけではない。
好みではないが、覚えていると言われて悪い気はしなかった。
が、あまり馴れ合いたくなかっただけだ。
今日来た目的は、38年振りに仲間と会って近況を共有したいというのは勿論だった。
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