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だが、それだけではない。少々恥ずかしい興味だが、
「男性陣がどれだけ禿げたか?女性陣がどれだけ太ったか?」だった。
迫水は、シャンパングラスを片手に、キャビンからデッキへ出た。
クルーザーの走行風が全身に当たり、押し戻される感覚を伴いながらも
白いデッキチェアーのセットをめがけて進む。
「どっこいしょっと。」デッキチェアーに腰を降ろすと間近から女性の気配がする。
「どっこいしょっ。と言うようななったら歳なんだよねっ。失礼!隣、いいですか。」
デッキチェアーは2つペアになっていて、
中央に小さな簡易テーブルがついている。
「いいですよ。」 シャンパングラスをテーブルに静かに置きながらOKを出して、
迫水は女性の顔を見る。
見る、見る・・・女性も同じく、隣にシャンパングラスを置いて
デッキチェアーに座るが、
38年前の17歳、高校3年生の時の女子クラスメートの誰かは
なかなか思い出せない。 想い出せ、誰だと、迫水は記憶を手繰る。
「迫水・・・ショウクン、だよね、確か。」
「うん。・・・(まだ思い出せない、間違ったら恥ずかしいな)」
「髪型、変わってないもの。それに、その声も。」
「王様の声!!!」
2人同時にハモるように発声したキーワードから、
迫水の38年前、記憶が鮮烈に蘇った。
「岡西・・・みづほじゃないか。」そうだ、
3年のクラスの文化祭で人形劇「裸の王様」をやった時、
俺は王様の声をやったんだ。岡西みずほは、劇の監督で、配役を決める時に迫水の家に電話をかけてきて、
王様の声をやって欲しいよ、と懸命に口説いたのだった。電話を取り次いだ迫水の母親は、
想定外のクラスの女子生徒からの長電話を傍らで眺め、全くモテない息子にも恋人ができたのかと、
根掘り葉掘り岡西の事を聞いて来た経緯。
人形劇だから裏方が多かった。女子のほとんどが人形作り、
男子は大道具や指人形を動かす役をやった。
最後は皆が「王様は裸だ」と言った。
配役は王様、大臣、悪党1、悪党2、最後に子供だけだった。
本番の人形劇は、迫水が王様の声を見事に演じ切り、
王様の声が凄いと評判になり、連日満員御礼だった。
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