第一章 あの時のクラスメート

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迫水の「晶」の名の読みは「アキラ」だが、皆からは、音読みで発音しやすい「ショウ」と 呼ばれていたこと。などなど、そして、目の前に腰掛け、自分と話している、 地味な紺色のパンツスーツを着た女性、岡西みづほの38年前、 制服のセーラー服に身を包んだ17歳の時の姿も、迫水の脳裏にセピア色の映像として蘇っていた。 「あの時の監督、岡西が今日の幹事かよ。」 「まあね、監督の責任ってヤツ、かな。」 迫水の問いに応えるみづほの声色は、中高年特有の 少しドラ声の混じった感じを除けば、 あの時とそう変わっていなかったが、容姿は確実に年齢相応 となっていたが。 「岡西はあの時と変わっていない、殆どあの時のままじゃないか」 「嫌ね、ショウ君、あなたは成長してすっかり変わって、 おべんちゃらまで言うようになったのね。あはは。」 「ああ、俺の方は、随分と太ったがな。」 迫水はすっかり熟年太りした腹をポンポンと叩きながら言った。 身長165CM・83KGの身体はとても格好良いとは言えなかった。 みづほは体重は高校生の時とほぼ同じだったが、 さすがに熟年特有の外見上の衰えは明らかだった。 「そう・・・ね」  シャンパングラスの中身を飲み干したみづほの左手の人差し指が、 デッキ上の料理がふんだんに乗ったテーブルを向いた。 「あっちのテーブルにいる男子クン達は、みんな禿げ上がっているから、 誰かわからないのよ。正直ね。 でも、まあ幹事の私としては、ハゲの君、誰?とは言えないワケよ。」 「ああ、肉ばかり喰らっていりゃ、ハゲるんだ。」 「デブは痩身できるけど、ハゲは今の医学では回復困難だからな。」 「仲良くツーショットのところ、お邪魔して宜しいかしら。」 迫水とみづほの前に白い簡易チェアーとワイングラスを携えた 赤いジャケットに黒いフレアスカートを穿いた 沖田総子が立っていた。 乾杯の前から賑やかだった二人のうちの一人だ。 「ご自由に。」迫水が返した言葉に、総子は簡易チェアーを 2人の前において座り、テーブルにワイングラスを置き 「サコミズです。」いきなり迫水を真似て言った。 「何だ、藪から棒に」 「声で直ぐ分かったわ」 「今初めて喋ったんだが」 「直美と喋ってたじゃない」 「地獄耳か?」 「あたしの事分かる?」
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