1 白いティオ

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「それでも、命はひとつも失われなかった。国が滅びるほどの大災害を、あなたが未然に防いだんです」 「……ありがとう」 「それはもう過去のできごとになってしまっているから、あなたは救った命より、救えないティオの心を思うんです。私は……あなたがそれを罪だと思うなら、その罪とともに生きたい」 「あ……」 「でも、私は……、そう思う反面、ただの初代ティオです。彼らのおびえる気持ちも、恐怖も、同じだけ幸福を求める思いも、……わかってしまう」 「わたしは……はぐれティオを一手に引き受けることはできない。ひとりずつ詳細に話を聞いて天使の元へ戻せばいいと思うでしょうけど、ティオは過去に傷を抱えている。そんな状態で、せっかく逃げ出した場所へやるなんて、ようやく登ってきた崖から突き落とすのと同じよ。はぐれているほうがまだましだなんて普通には理解してもらえない。体裁が悪くて、それだけのためにティオを迎えにくる天使がいるかもしれない。次は逃げ出さないように、ティオはどんな扱いを受けるの。わたしは一刻も早く彼らを自由にしてあげたかった。まともな天使に出会う前に、あの子たちがまた不幸へ連れ戻されるのがわかっていたから」 「はぐれていたほうが……いい?」 「全員がそうだとは言わないけど、不当な扱いを受けて逃げ出したティオなら間違いなくそうだわ。わたしには迎えにきた天使を断る理由がない。幸福にティオを養育することができる天使は、はぐれていることをかわいそうだと思うでしょうけど、事故やめぐり合わせが悪くてはぐれてしまったティオとは意味が違うの。幸福から転落したティオと、不幸から逃げ出したティオがいるのよ。それを一括りに天使の元へ返すなんて、わたしにはできない……っ」 「……そうですね、幸福から投げ出されたティオなら、どこかへ救いを求めてもおかしくない。でも、はぐれティオはそうしない」 「連絡すれば、連れ戻されるとわかっているのよ」 「だから、国王様が助けてくれると信じて……」 「わたしはそれを裏切った」 「だったら、これからでも彼らに救いの手を」 「だめよ。そんなことしたら、追っ手だと思われるだけ」 「ああ……」 「何の解決にもなっていないことは……わかってるの。わたしも苦しいのよ」  ティオ・インヴァージュナは国王を抱きしめる。 「もう……休んだほうが」 「眠れる気がしないのよ」  わずかに身をはなし、そっと口づける。
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