1 白いティオ

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「それじゃ、私を救ってください」 「なに?」 「あなたに触れたくて、やわらかさに包まれたくて、たまらないんです」 「ちょ……っ、いきなり何てこと言うのっっっ」  ふわりと、甘い香りが満ちた。 「自覚症状はなかったんですけど、以前こっそりイグノトル医師が教えてくれました」 「な、なんの話……っ」 「初代ティオが発情期になると現れる赤斑、私にもあるらしいです」 「う……、そんなの、聞いたことないけど」 「この香りの正体だそうです。見ます?」  ティオ・インヴァージュナは後ろ髪をかきあげた。 「う……わ、ぜんぜん気づかなかった。すごい、赤いよ」 「あ、……あんまり触らないで」 「痛い?」 「……じゃなくて、まずいことになりそう」 「いい香りするのは知ってたけど、こんなのが出てたんだ……」 「どういう時に?」 「寝るっ」 「あれ、ずいぶん積極的に」 「おやすみっ」  慌ただしく書類を拾いあげ、さっさと寝室へ引き上げてしまう。  それを追いかけると、彼女は背中を向けてベッドに横たわっていた。 「あー、怒って……ます、ね」 「あなたが変なこと言うからでしょ!」 「あのー、夫婦なんですけど」 「関係ない!」  すごくあるような気がしたが、それまで眠れないと言っていたひとなので、それはそれでいいか、と思う。 「で、……私が眠れないんですけど」 「知らないわよ、そんなのっ!」  何だかとても理不尽なような気がした。
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