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「私はもう二度とティオを失いたくない。国に連絡すれば私たちはわずかな時間でも離れていなくてはならなくなる。この子の気持ちを知り、その間の危険性を思うと、先に手続きをすませてしまいたかった」
「それなのに、わたしに託すのはどうして?」
「不正が発覚した以上、この子が乗り越えてくれると信じるしかないでしょう。幸い、元の主が手放してくれましたので暴力を受けていたところに戻されることはありません。いいね、ティオ。君は国に保護してもらって、新しい養育者に出会いなさい。半年で名前をもらって大人になったら、誰とどこにいようが罪にはならない。君が望むなら、私のところへ帰っておいで」
「いやだ! ぼくは、あなたに養育してもらう。あなたがいい。あなたのそばがいい……っ」
「だめだよ。もう私は養育できない」
ふ、と国王がため息をついた。
「もういいわ、リューウェイ。連れていって」
はい、と返事をし、リューウェイは抵抗もしないイグノトルを連れていった。
「どうして……っ」
床に泣きくずれるティオの背中をなでながら、エリミシアが言う。
「ティオ、あなたは本当に、イグノトル医師が好きなのね?」
国王の気配に穏やかさを感じ、ティオがふと、顔をあげる。
「……はい」
国王は、微笑を浮かべていた。
「わかった。それじゃ、一緒に来てくれるかしら」
「どこ……に?」
「わたしの新しい腹心のところへよ」
「えっ?」
「やだ! どうしてっ」
少年のようなティオの声にすぐ気づいたイグノトルが独房の床から顔を上げると、自分がいる向かいの独房に押し込められていくティオを見つける。
国の最高責任者がそれを監視していた。
イグノトルは、彼女を射るような眼差しで睨み据えた。
「国王、これはどういうことですか」
「不法所持されていたティオを保護しただけよ。逃げられると困るから」
「その子は逃げたりしませんよ。あなたのやり方は間違っている」
「ティオをあなたから引き離すわけにいかないでしょう」
「閉じ込める理由にはならない!」
中からティオが必死に鉄格子を揺すっているのが見える。
「こわいよ、国王さま。ここから出してっ」
エリミシアは表情を変えない。
「国王。あなたもティオが暗闇を恐れることをご存じのはずだ。なぜこういう半端な対応しかできないんですか」
「リューウェイ、それも押収品と一緒にしておいて」
「あ」
リューウェイが持っていたティオの日用品や着替えなどが入った紙袋が持ち去られていく。
あれを着て、今夜は暖かいベッドで眠るはずだった。イグノトルと、二人で。
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