4 嘘

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「このティオがあなたを想っている証拠がほしかったの。ごめんなさいね、酷いことをして」 「国王! 喪失の病は完治させる方法がないんですよ。なぜこの子にそんなことをっ」 「ティオの気持ちが本物なら、いつどこで発症してもおかしくないわ。わたしはそれが見たかった」 「国王っ」 「考えたのよ。もし、あなたがいない時に発症したら……?」 「……っ」  前のティオと、同じことになる。  国王は王婿から聞いて……いや、それはわからないが、国王は以前に起きたことを、知っていた。 「あなたが必ず、病からティオを取り戻してくれると信じてた」 「な……」  知っていて、知っているからこその荒業だったのか。 「以前ならとてもじゃないけどそんな恐ろしいことはできなかった。でも、あなたの言葉を聞いてこのままじゃいけないと思ったの。これから数々のはぐれティオを救うにあたって、あなたの意見がほしいの。協力してもらえるかしら」  言葉が、見つからない。 「わたしは、このティオをあなたのそばに置きたいの」 「な……にを」 「実はね、至上神に問い合わせたら、この子は名前のない初代ティオとはいえ、元の持ち主に預けられてから半年を経過してたわ。つまり、はぐれていても法律上は大人の扱いになるの。だから、合意があったなら暴力行為にはならないのよ」 「え……っ」 「あなたの言うとおり、半年を別の天使に預けることも考えたけど、ティオはそれを望まなかった。喪失の病だっていつかは発症するのだから、いっそのことあなたの前でと思って」 「あ……」 「これであなたのそばに置くことができるわ。はぐれティオは半年を経過していれば自分で名前をつけて国籍を取得することもできる。だけどね、やっぱり愛情を持って育ててくれる主を持つことがティオにとっていちばん幸せだと思うの。この子はそれをあなたに望んでる。だから、このティオの養育をあなたにお願いしたいの」 「しかし、私はこの子に手をつけてしまった。養育するには不適格です。だからティオの自由を奪わなかった。誰かに発見され、引き離してもらいたいと、心のどこかで願っていたんです」 「イグノトル……さま……」  腕の中で身動ぎするティオをなだめるように、その白い髪をなでる。 「この子は天使の愛情を受けたことがない。いくら半年を経過していても、この子はまだ子供です。なのに、私は……」
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