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エピローグ
イグノトルの部屋は専属が証拠探しのため荒らしてしまったから、と国王がお詫びにと普段はあまり使われていない客間を用意してくれた。
つまり、外を往来する人影もない部屋だ。
変に気を遣われたのか、何事があっても公にするなと暗に命令され……いや、考えすぎか。
イグノトルが扉を開けてティオを先に入らせる。
「うわあ、イグノトルさまっ」
「なに、大声だして」
「ご、……ごめんなさい。ぼく……」
「ごめん。君はそのことに傷ついていたのに」
扉をしめて、ティオをそっと抱きしめる。
「ううん、もうだいじょうぶ。あなたのそばにいたいって声にだしたら、そのとおりになったよ。だからもう、こわくないんだ」
身をはなし、ティオを見つめる。
「な……に……?」
じっと見つめるだけで戸惑うようにうつむいて頬を染めるティオに、いくら喪失の病を防ぐためだったとはいえ、昨夜のことをかすかに後悔する。
「養育とか言って、何を教えるかわからないのにね」
ティオに顔を近づけ、額と額でこつん、とする。
「……ん、平熱」
「あの……ね、イグノトルさまが買ってくださった紙袋、持っていかれたのに置いてあったから、びっくりして」
「あ、本当だね」
ティオから離れ、椅子の上に置かれていた紙袋から中身を取り出した。
「絶対に白がいいと思ったんだよね。着替えてみる?」
「えっ……」
襟もとを両手でおさえ、ますます真っ赤になっている。
ふわりとした甘い香りに自分で気づいたのか、あわてて赤斑に手をあてる。
「ちょっと見せてごらん」
仕草で異変に気づいたイグノトルが、ティオの後頭部へ手をのばす。
「や、やだ……っ」
「見るだけだよ。おとなしくして」
ティオの白い髪を首筋からかきあげると、そこは見事に赤い色が浮かんでいた。
「……赤斑、血の色みたいになってるけど、痛くない?」
「だいじょ……ぶ。でも……」
深刻な顔をして、見上げてきた。
「言いにくいこと?」
「着がえるから見ないで」
「……ああ、そっちね」
絶対だよ、と壁際まで背中を押してくれた。
「どっちが前かわからないとかは」
「ないからっ!」
く、と笑ってしまう。
着替えより恥ずかしい姿はもう見たあとなんだけど、本人は気づいてるのかどうなのか。
できたよ、という声に振り向くと、真っ白な夜着を来た白髪のティオがいる。
どうして前のティオと勘違いしたのだろう、今はもうこんなにも彼は彼でしかないのに。
イグノトルが、ティオに近づく。
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