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「きっ……つー、これが半年も続くわけ?」
散らかり放題の医務室で、ひとり呟く。
「だから養育なんて無理だって言ったのに国王は……!」
どうにかお茶の用意をして、もう終わってるころかな、と見計らい、ティオが待つ部屋に戻る。
「……イグノトルさま」
辛そうに涙を浮かべて、毛布の隙間からこちらを見た。
「なに、一大事?」
「出せない……っ」
「え。あー……はい、診ます、医師として」
遠慮なく毛布の中に手を入れ、
「……やあ……ん」
ティオが身を震わせた。
「……異常なしです。私、触ってないけど」
「……できた」
「……うん、そうだね」
何から言えばいいのかわからず、少しの沈黙の中で、ティオが自分で後始末をする動きから目をそらす。
「水分失ってるから喉かわいたでしょ? 落ちついたら飲んで」
「はい……」
私の手に触れられる、と思っただけで……いや、あまり考えないほうがいい。
ティオが愛しすぎて、おかしくなりそうになる。
「養育中は、我慢しちゃだめだよ」
恥ずかしそうに毛布から出てきてベッドに腰かけたティオが、うつむきがちにほほえんで、頷く。
「私を好きかい?」
「……はい」
「そう……」
答えずに、微笑みかえしてお茶を手渡す。
「あなた……は?」
「まだ言えないよ。保護者だからね」
「うそつき」
「まあ、……そうなんだけどね」
先に飲み終えたイグノトルがベッドに横たわる。
しばらくして、白い夜着を身にまとったティオがそばへもぐりこんできた。
その確かなぬくもりに、命に、儚さを見てしまうのは違うのだろうか。
「もし君が喪失の病でいなくなったら、私も逝くから」
「え……っ」
「苦しくなったら、思い出して。君の命はもう、君だけのものじゃない」
「……はい」
「大丈夫だね。君はいなくならないね?」
「うん。あなたも、いなくなっちゃいやだ」
心細い声だった。
「もう……どこへも行かないよ」
顔を近づけると、ティオは瞳をとじて、じっとしていた。触れた唇から天使の力を届け、眠りに導く。
「……ん」
「何も心配いらないよ。……なにも。安心して、おやすみ」
イグノトルは自分にも言い聞かせるようにささやき、ティオの寝息が聞こえてくるまで、そっと頭をなでつづけた。
―おわり―
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