1 白いティオ

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「それとこれとは別よ。本当にティオ種を救うなら、養育制度そのものを見直すしかないわ」 「現在はぐれてしまっているティオたちはそこに含まれないでしょう」 「……わかってはいるのよ」  国王が視線をはずし、窓のほうを見た。  彼女の夫も元ははぐれティオだったため、その懊悩の深さは理解できる。  だが、傷ついたティオたちの痛みを思い、解放してやるという半端なやさしさでは、彼らを救うことはできない。  傷はいつまでも痛み続け、恐怖におびえる日々が待っているだけだ。  だが、指摘されたとおり、十数名のはぐれティオをたったひとりでどうにかしてやれる方法がない以上、国王の決定に食い下がることはできない。  ただの王宮医師ではどうしようもないことだった。 「ご心痛、お察しいたします」 「ありがとう。それじゃ、お願いね」 「かしこまりました」  イグノトルは嫌味にならないよう気をつけて、正しい礼をした。  医務室に戻り、はぐれティオたちが現れるのを待っていたイグノトルは、外から国王の婿であるティオ・インヴァージュナの声を聞いた。 「診察はすぐにすみます。落ち着いてひとりずつ部屋の中へ入ってください」  絶滅危惧種である一角獣は、初代から三代目までをティオと呼称し、傷つきやすい彼らを区別し、周囲に注意をうながしている。  特に、先天的に天使の力を必要とし、その力がなければ眠ることすらできない初代ティオたちは、身分的には最下層に位置するため、王婿である彼の言葉がいくら丁寧であっても、彼らを指示する声には苛立ちを覚えてしまう。  自分が天使だからか、と思いながら吐息して、イグノトルは医務室から顔をだした。 「ずいぶん待たせるね?」 「ああ……、すみません。ティオたちがおびえてしまっていて」  びくびくと肩を寄せあうように、ひとの姿をしたはぐれティオたちがひとかたまりになっていた。 「王婿殿下(おうせいでんか)、それでは無理ですよ。あなたも初代ティオなら彼らの恐怖がどういうものかわかるでしょう」 「国王様のご命令です。いくらあなたが天使様でも逆らえるものではありませんよね」 「最下層のティオが天使に意見するのかい?」 「私は王婿という立場にあるんですけど」  嫌味なのか自然なのか、ティオ・インヴァージュナはにこにこ笑顔で言い切った。  ならば、とイグノトルは攻撃に転じる。 「国王に婿にしてもらっただけで、自分も偉くなったような気でいるんだね」 「なにを!」  予測していた王婿の怒りを無視し、イグノトルははぐれティオたちに視線をむける。
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