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「検査はこれだけだよ。こわくないからね」
どんな部屋なのか窺い知ることができるよう、イグノトルは医務室の扉を開け、風で閉まらないように椅子を持ってきてそこへ置く。
ティオ・インヴァージュナはようやくそれらがはぐれティオたちの不安を取り除くための作業だったのだと気づいた。
「あの、イグノトル医師……」
「何かな? 忙しいんだけど」
「私が……間違っていたんでしょうか」
「知らないよ。私も結局は診察をしてほうり出すんだからね」
「あ……」
「私も国王に意見はするよ。でも、君ほどまっすぐには伝わらない。しかも、ただの王宮医師だからね、政治のほうまで口だせるわけじゃない。でも、君は違う。最下層のティオ種だったからこそ、私を含め、国民は君に窓口的な役割を期待している。王婿殿下、あなたは国王に婿にしてもらったティオだ。その事実はあなたの肩身を狭くしているかもしれない。けれど、その反面、あなたにしかできないことは山ほどあるんです。それをご理解いただきたかった」
「イグノトル医師……」
「はぐれティオたちの前で王婿殿下に恥をかかせてしまい、申し訳ありません」
正式に膝をついて謝罪した。
「……いえ、そんな」
天使がティオに敬意を払うところを目撃し、はぐれティオたちがざわめく。
「ああ、そうだ。もうついでだからそこに座ってもらって診察しようか。えーっと、順番はどうやって決めようかな」
はぐれティオたちは近づいてくるイグノトルに少しずつさがっていく。
その中に、無表情の白い髪をしたティオが残された。
「おや、君はこわくないの?」
聞こえていないのか、返事をしない。
顔をのぞきこむと、何も見えていないような薄い桃色の瞳に気づく。
これは生まれつきのアルビノ個体だろう。白いティオは目立つのに、よく捕まらずにいられたな、と感嘆する。
すっと手を近づけると、反射的に身を縮ませて顔をそむけた。
過敏な反応に、このティオが日常的に暴力を受けていたのだと悟る。
イグノトルは両手を後ろで組んだ。
「私は医師だから殴ったりはしないよ。君の目が見えているかどうか確かめたかったんだ。びっくりさせてごめんね」
ティオがもとの無表情に戻るのを見て、ほっとする。
「見えてはいるんだね。おいで。微妙に部屋の中でひとりずつだから問題ないよね?」
半分はティオ・インヴァージュナに問いかけた。
「はい。よろしくお願いします」
王婿は普段のにこやかな笑顔を消して、真摯に頭をさげた。
そこまでは要求してないのにな、とかすかな後悔に見舞われる。
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