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「あー、さっきはごめんね、言いすぎた。一国民の無責任な発言だから、気にしないで」
「ティオだからできることがあるなんて、思ってもみなかったんです。身分の差を埋めようと、そればかり必死になっていた……」
「だからって、国民の声に潰されてはだめだよ。矛盾するようだけどね」
「あの……?」
「心配なんだよ。君が国王と国民との間で板ばさみになりはしないかって」
「なぜ……私を?」
「仕事だからね」
「私と国王様には典医がいますけど」
「あなたが例えば私の目の前でぱったり倒れても、御典医がいるからと見捨てたりはしませんよ。極端に言うと国王もあなたも王宮の職員であることにかわりはない」
「まあ……、そういう考え方もありますか」
「もちろん御典医が到着したら見捨てますよ。王婿殿下に取り入ろうなんて野心は持ち合わせてないんでね」
すこし笑い、あとで報告をくださいと言い残し、ティオ・インヴァージュナは立ち去った。
その間、白い髪のティオは何も言われていないのに、扉をおさえた椅子に座っておとなしく待っていた。
「おや、ちゃんと聞いててくれたんだ。いい子だね」
イグノトルは背をかがめて笑顔をつくった。
「道は見えているんだよ。国王に意見してだめなら、君たちを全員引き取って周囲の同情を集めることだってできる。でも、君たちが本当の主に出会えるとは限らない。国王の気持ちも理解できてしまうから、やっかいだよね」
白いティオは何も答えない。
「しかも、天使が名前のない初代ティオを保護すれば罰せられる。名前がなければどうにでもできるからね。その理由はわかるけど、保護してみなければ実態はわからない。解決のしようもないと思うんだよね。せっかくこれだけの数のはぐれティオがいるのに、事情も聞かないなんて……」
頭をなでようと手をのばす。
今度は避けなかったので、こわがらせないようにゆっくりと髪に触れた。
少し癖のある白い髪は、幼子のようにやわらかく艶やかだった。
いつまでも撫でていたいような気持ちにさせられ、長い間ひとりでいるせいか、と思い知る。
「そう言う私も、国王の命令には逆らえない。ちょっと待っててね、私の机と椅子をこっちに持ってこないと」
イグノトルが部屋に入り、手ごろな机を動かそうとすると、白い髪のティオがその反対側にいた。
「手伝ってくれるの?」
何も言わずに持ち上げる。養育先で使用人のような扱いを受けていたのかと思い、イグノトルの胸に怒りがこみあげる。
運びおえると、またきちんと椅子に腰かけた。
「ごめんね、何もしてあげられなくて」
ティオがわずかに瞳をみひらいた。
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