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「国王様、はぐれティオに全員異常はありませんでした」
ティオ・インヴァージュナは自分の妻であり国王でもある女性に、イグノトル医師から預かった診察記録を手渡した。
「ありがとう、ご苦労さま」
「いえ、そのことで……お話したいことが、あるんですが」
「なに? 改まって」
「そのティオたちをどうして、放置なさるのですか」
ばさっ、という音をたて、頬に書類が叩きつけられた。
受け取りそこね、白い紙が舞い落ちる。
「あなたがそれを言うの」
「ティオは国王様に意見する身分ではない。そういう意味ですか」
「……もういい、疲れたわ」
「言ってくだらさないとわかりません」
「全国民の数を考えて、地竜の危険性を考えて、わたしはやむなくはぐれティオを集めて軟禁した。あなたと同じティオ種を束縛するしかなくて、わたしが傷つかなかったとでも思うの? おびえているティオたちに、わたしが何をできる? もう地竜のことは大丈夫だから安心してねって、一度だまされたティオたちがその言葉を信じると思うの? できるならわたしだって、あの子たちを全員引き取って養育してあげたい。名前をつけてあげたい。だけど、今のわたしには、こうして健康状態をみて自由にしてあげることしかできないのよ。それをあなたが、どうしてわかってくれないの」
「国王さま……」
「あの子たちになら、どれほど恨まれたってかまわない。わたしはそれだけのことをしたんだから。でも、あなたにだけは……っ」
こらえ切れずに、涙をおとした。
「……ごめん」
「あなたが苦しいのはわかってる。でも、仕方がなかったの。国民の命を、生活を守るためには仕方のないことだったのよ。わたしではだめなの。あの子たちを救うなんてできないのよ。だって、わたしはあの子たちを殺そうとしたんだから」
ティオ・インヴァージュナは国王の言葉が誇張だと知っていた。
殺そうとしたと言うが、実際は地竜に会わせ、その友人になってほしいという彼女の願いだった。
永遠にも等しい時を生きる地竜の心に寄生し、その生涯を共にすごせるような相手が見つかればいい。
そうすれば、国も地竜も救われる。
選ばれたティオも、ともすれば悠久の時を渡るほどの命を手にできる。
しかし、地竜以外の生きるものは、必ず彼らを置いて逝く。
自らの孤独にティオを引き込むことはできないと、地竜はそれを拒んだ。
そして、留めおく意味のなくなったはぐれティオたちは医師の診察を受け、解放されることとなった。
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