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「ごめん、遅くなって……って、お凛…!?」
木の下に佇んでいた「桜」ではなく「凛」の姿に、
平助は目を見開いて驚く。
「なんでお凛がここに…いや、それよりも…お凛、ここに桜さんいなかった?」
「えっ…?」
キョロキョロと辺りを見渡す平助に、
凛はドキリとして慌てて答えた。
「あ…桜…姐はんやったら、その…お、おうちの方が迎えに来はって、さっき帰られました。」
「えっ…そうなの?」
目を見開く平助に、
凛は苦笑しながら頷く。
「平助君に、迷惑かけてすんまへんって…。おおきにって、言ってはりました。」
凛の言葉に、
平助は少し間を空けると…
「…そっか…。“迷惑”だなんて、思ってなかったのに… 。」
と、ポツリとそう呟いて、
桜の木を見上げた。
「…なんだか…本当に“桜”みたいな人だったな。」
少し残念そうな…
寂しそうなその表情に、
ぐっと胸が締め付けられる。
平助は再び凛に目をやると、
いつものように無邪気な笑顔を浮かべた。
「まぁ、また会えるよな!」
そんな彼に、
凛は目を見開くと…込み上げてくるものを押さえて笑顔で頷く。
「…うん。桜姐はんも…そう、言ってはったから。」
凛の言葉に、
平助は嬉しそうに頷く。
…「桜」が見せたひと時の「夢」の時間を知る者は、
自分以外に誰もいない。
しかし「夢」は夢でなく、
ちゃんと彼の心にも刻まれていた。
…そしてそれはまたいつの日か、
今度は「現実」となって彼の前に現れる日が来るのだろうか…?
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