2052人が本棚に入れています
本棚に追加
/190ページ
自宅とは違う方向、お参りをした神社に向かって走る。
境内に着いた時には息も苦しかったし首に巻いたマフラーも解けていたけど。
カバンから財布を取り出し、中身を確認。
千円札一枚と、小銭が少し。
それを全部賽銭箱に入れて、柏手を打って両手を合わせる。
「神様、前の願い事は無かった事にしてください」
千円とちょっとじゃ無かった事にはならないかもしれない。
それでも、お願いします。
「願い事を叶えてもらって、嬉しかったです。でも、これじゃダメなんだ」
両手を合わせたまま、ギュッと目を瞑る。
「俺は、好きな人には笑っていて欲しいから」
瞑った目から涙が滲んで、頬を伝った。
宮野君には、笑っていて欲しい。
偽物の幸せじゃなくて、本物の幸せで。
「お願いします、神様。お願い……」
「神田?」
聞き覚えのある、俺の好きな人の声。
え? 宮野君?
.
最初のコメントを投稿しよう!