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フランス人形の口は閉じていて、口角が上がっているわけでもない。
なのに私は、チョコレート色のチェストの上に座るフランス人形が笑っているように思えて仕方がなかった。
機械音でもその声も笑いながら言っていたわけではない。
そう見えてしまうのだ。
最初にフランス人形を見た時のように、私は離れるように牢の鉄格子ぎりぎりまで後退る。
隣の牢に居るスキニーパンツの女も同じように後退っていた。
名前を……確認?
一青零司の名前を確認したという事はわかったが、それが何だというのだろうか。
私だけではなく、牢の中の誰もが怪訝な表情を浮かべているのを私は見た。
二人だけが、違うのも私は見た。
一青零司と、黒髪の女である。
二人は私の方を向いているが私の向こう、フランス人形を見つめていた。
黒髪の女は、はーっと深呼吸するように息を吐き、ゆっくりと俯く。
一青零司は、と見ると、彼は予想に反する表情を浮かべていた。
表情というより目である。
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