†花熟†

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それが理解できたからこそ、余計に腕の中の花束が特別に大切な存在に思え、クロアへの花束が用意できなかった自分が悔しくて情けなかった。 『クロアはこんなにも私を愛してくれているのに……、』 どれだけ深い愛情を持って、クロアが自分の事を愛してくれているのか。ロアはクロアの愛に触れ、愛情の深さを知るだけに、 『未だに私は愛が分からず……、今日のような特別な日に、クロアへの贈り物を用意する事さえ出来なかった…』 花束が用意できなかった事だけではなく、恋情を伴う愛情が未だに理解できない自分が情けなくて仕方なかった。 ロアはクロアを想うと胸が締め付けられるほど切なく、どうしようもない程に心の奥底から、クロアを求めてしまいながら、恋情を伴う愛と云うモノが分からないのだ。 本来ならば、ロアはセフィロトの苗木でもある為に、いつかこの聖界の為に利用され犠牲となる未来を抱えており、現聖主である父と次期聖主となる筈であった弟に所有され管理される定(サダ)めであった。 しかし、我が子を道具とするだけの定めを回避し、封印しきれない力の影響まであるロアを、"ロア・S・セイン"と云う個にするために、父である聖主は次期聖主として産まれてくる筈だった弟の聖主の資格を、セフィロトの苗木でもあるロアに移し次期聖主として定めた。 だが、 "聖主と成る者は、神族の血を残す為に、愛に狂う。" それが聖主と成る者の宿命(サダメ)であり、事実、ロアの母は父、聖主の狂いの愛で狂わされ、正気を失い我が子であるロアの事さえも分からず、弟であるセキルを産むと同時に命を賭(ト)した。 今でこそ、感情が乏しく、何事に対しても無関心で淡々としているロアだったが、実は16の成人の儀までは感情豊かで明るく、隔離された環境に置かれた自分を想う周囲を気遣い、笑顔を絶さない穏やかな性格の少年だったのだ。 それが現在のように、無表情で無関心、感情が乏しく淡々とした性情になったのは、成人の儀の直後。 聖主の宿命を知り、母が狂った本当の理由を知り、自分の定めを全て知った時。
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