~X~

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「お前は俺のモノだ」 「ッ………」 長い口付けだけの感覚に囚われ、翻弄され眩むロアの意識に囁かれる、所有の言葉。 忠誠を誓った主を恋人として所有するクロアの言葉と想いに、搦(カラ)め捕らわれるロアの意識。 だが、今にもロアの全てを呑み込みそうな、クロアからの言葉に耐えるようにして、ロアはクロアの官服を握り締めると、熱を宿す眼差しをクロアに向け、 「だが……お前も…私のモノだ……」 主の矜持として、側近クロアを所有する言葉を紡いだ。 恋人として主を所有するクロアと、主従として恋人を所有するロア。 ロアからの言葉にクロアは、愛しげな微笑を口許に浮かべ、婚約を交わした証として、ロアと交換した、クロアの紋章が刻まれた銀のイヤカフが輝く、ロアの左耳に口付ける。 「…ンッ…………」 「そうだな」 「ぁ……ふッ………」 耳朶に絡まるクロアの吐息の熱と、口付けから生まれる甘い痺れが全身に広がり、小さく震えるロアの身体。 身を屈めた事で、纏めきれなかったクロアの髪がロアへと落ち掛かり、露になったクロアの左耳には、ロアの紋章である睡蓮が刻まれたイヤカフが輝き。 互いの紋章が刻まれたイヤカフを交換し、左耳に着ける事が婚約の証となる聖界。 「続きは…後だ」 口付けと言葉だけで、ロアの中に煽りの焔を灯したクロアは、ロアの反応から頃合いを見計らい、最後の口付けを額に軽く落とすと、そう言って、ロアへと与える刺激を止めてしまう。 「ハッ……ぁ…」 クロアの腕の中で、ほんの少し触れられる感覚にさえ、過敏に反応してしまいそうな、身の内に燻る熱を持て余し、ロアの唇から誘惑の蜜のような吐息が零れる。 華奢な身を小さく竦ませるように、クロアの胸元に凭れ掛かり、銀月の髪の狭間から覗く、耐えるようにきつく綴じられた目許に浮かぶ、紅色の蠱惑の熱。 どれ程、求めてしまう欲求があったとしても、恋人である時は、クロアの言葉に逆らわないロア。 何処までも従順に、側近である恋人に従う主。 まるで、月の輝きを支配する夜空のように……、 恋人である時のロアはクロアに支配され続ける。 それが、 聖界の次代の主、次期聖主ロアと、次期聖主側近クロアの主従でありながら、婚約を交わした、恋人同士でもある二人の秘めやかな関係だった。
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