君がいたはずの夏

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目を閉じ、葉の隙間から差し込む光を感じる。 ザワワ 木々が揺れた。さっきまで風など吹いていなかったはずだ。 もしかして......本当に...? 目を開けるのが怖い。もし彼女がいたら、彼女は...夏希は...俺を許してくれるのだろうか。 ゆっくりと目を開ける。 「......はぁ」 漏れたのはため息。誰もいなかった。当たり前だ、そんな話があるわけがないのだ。 死んだ人がもう一度現れてくれるなどありえない事なのだ。 俺は今、悲しげな表情をしているだろうか、ホッとしているのかもしれない。 自分の心境に呆れを感じながら、入ってきた神社入口の方へと体を向けた。 「やっほ、幸ちゃん」 え? 後ろから聞こえた声。誰もいないはずのその場所から聞こえた声は間違いなく彼女のものだった。 忘れることはないであろう彼女の声。
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