君がいたはずの夏

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夏希と俺は恋人同士ではない。男と女の真の友情などあるのか、と言われれば答えに困る。 実際俺は、彼女に恋をしていた。だからこうやって悔やみ、また夏希に会うため変な噂まで信じてここに来たのだ。 「幸ちゃん、聞いてる?」 間近に迫る顔に少し驚き、距離を取る。さらりと風に揺れる長めの髪。パッチリと開いた目、俺より少し小さい身長。そしてこの呼び方。 どう見ても夏希本人なのだが、俺はある事に気づいた。気づいてしまった。 「透けて...るんだな」 「うん、幽霊だもん」 うっすらと向こう側が見える。視力の悪い俺ではどのくらい透けてるかはっきりわからないが、それは確からしい。 夏希いわく、ここにいられるのは二時間だそうだ。さっきの説明はきちんと頭に入っている。 少ない。話したいことがたくさんあるのに。伝えたいことが、たくさん、たくさんあるのに。
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