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「さよなら言わずに死んじゃってごめんね?」
俺が言葉を口からだせずにいると、夏希が先にきりだした。
俺は無言で首を振る。
そんなことはいいんだ。
「そんなことはいいんだ」
やっと声をしぼりだす。
「伝えたいことがたくさんある」
彼女もわかりきっているだろう。そんなに鈍い人間ではない。
「俺は、夏希が好きだ。大好きだった!」
また涙が溢れてくる。何年も言えずに胸に溜まり続けていた言葉だ。
「私も好きだったよ?」
俺たちは両想いだった。お互い、それに気づいていた。でも決して口にはしなかった。なぜか、望まないからだ。
もし恋人になったとして、夏希が死んだら俺は悲しむ。一生ひきずるだろう。俺はそういう人間だ。俺も彼女も知っている。だから彼女はそれを望まない。
夏希が死ぬとき、俺にごめんねというだろう。きっと泣きながら死んでいく。俺はそれを望まない。彼女には最後まで笑っていて欲しかった。
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