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彼はいたずらっぽいその笑みに不覚にも胸が苦しくなる。
自分と変わらない幼い少女。彼女の想像力は誰の想像も超えていた。
「ねぇ、黒岩さん」
仇、と思われる相手の名を呼び彼女は小首をかしげた。
「あなたは神なのよね? それで、この意地悪で最低な現象を作り上げてしまった。それに対して何か償う気はあるのかしら?」
最恐の神と恐れられている黒岩と対等に話す少女を見て、天界に住んでいる天女は驚いた。そんな口の利き方をすれば消されてしまう!!
でも、彼は剽軽そうな顔は崩さずにこくりと首を縦に動かした。
「そうだね、新しい女王の仰せのままに。あ、でも、すべての人間を消すのは無理だよ? 信仰心は僕らの好物だからね、人の祈りは僕らにとってはある意味デザート。あっても困らないけどなかったら僕らが退屈で死んでしまう」
「そんなことは望まないから安心して。私が望むのは一つ。能力者をここに集めてほしいの、この世界各国に散らばったかわいそうな異能者。私がすべてを救ってあげる」
それは彼女にとっての決意。
でも、その決意がいろいろな事件を引き起こし、何度も世界の理を覆すのはまだ先の話。
それから、数年が経った。
彼女は女王としての貫禄をつけはじめ、黒岩とシンはその補佐を務めていた。
黒岩の恋人の天女もその仲間だ。彼女の名は、ユキス・アジュールと名付けられていたが呼びにくいため、ユキと略されていた。
「おい、女王様!!」
野蛮な叫び声。シンはため息をつき、黒岩は笑いをかみ殺す。
「竜、騒々しいですよ?」
幼少期とは違う落ち着いた少女の声。そして、彼もまた幼少期とは違う大人びた声質になっていた。
「お前、また、ガルーラの世話さぼっただろう!!」
黒岩はこらえきれずに噴き出す。ガルーラというのは不思議生物で女王が創った。
生き物の創造は暗黙の了解で禁じられているのにも関わらず、愛玩具がほしいと駄々をこねた少女の希望で創られた。
「だって、もう、餌を食べないんですもん」
「お前の餌がまずいんだろうが!」
餌は手作りなのだがこの女王、年々、手先が不器用になっている。
「まぁまぁ、アリスも頑張っているんだから竜牙くん、大目に見てあげて」
そういって甘やかすのは世話係のシン。出会った当初より心なしか丸くなっている。
黒岩は笑いながら竜牙の肩をたたいた。
「ククク、まぁ、女王のペットなんだし」
竜牙は呆れたようにため息をつくと、ガルーラの咆哮が鳴り響く。
「竜牙さん、呼ばれてますよ」
アリスのその言葉に竜牙はずっこけ、黒岩は耐えきれなくなったように笑い出す。シンは穏やかな頬笑みを浮かべていた。
「あー、もう、ガルーラ!飯さっき、食っだろうが!」
竜牙はそう叫びながら、ガルーラの元へと歩いて行った。残るは、気まずそうなアリスと笑い転げている黒岩に、アリスの側に立って穏やかに微笑んでいるシン。
「ククク、そう言えば、アリスちゃん」
思い出したように、黒岩が言葉を告げる。
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