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少年は後ずさる。
少女の瞳は笑っていなかった。
「あれ? 今日はおじさんじゃないんですね? 」
雨に濡れた白いワンピースが少女とは思えないくらいの妖艶さがあった。
「あ、あ、ぼ、ぼくは……」
少女は、少年をもの珍しそうに見つめる。
そして、ふわり、笑むと猫の死体を少年に見せた。
その無残な死体に少年が目を逸らすと少女は首を傾げる。
「こわい? これ」
無垢な少女の声。
少年は素直に頷く。
すると、少女は更に口角を上げ笑みを深くするとその猫の身体をさすりはじめた。
「古に渡る古き智よ。此の体に宿っていた魂を蘇らせろ。ホープ・エンジェル」
少女の凛とした言葉と共に浮かび上がる青白い光。それは、優しくふんわりと猫の死体を包む。
傘も差していないはずなのに、猫の身体はぽかぽかと暖かい光を放ち始める。
「ほら、お逃げ」
ふう、少女が猫の耳に息を吹きかけると猫はビクッと動きそのまま、雨の中を駆けだす。
少年は、少女のことを見つめた。
「こうやって、命って生き返るの。おばあちゃんも生き帰してあげたのに、それなのに。みんなに怒られちゃった」
てへっ、少女は悲しそうに自らの頭をコツンと叩く。
少年は、少女の手をむんずと掴み、駆け出した。
行き先は父親と暮らしているぼろアパート。
少年の父親はいわゆる、ニートというものだ。
齢二十六の父親。 少年が今、七歳だから、十九歳のときにできた子供だ。
「父ちゃん、ただいま!!」
ずぶぬれの少年を迎えたのは心配の声ではなく、だみ声の怒鳴り声。
「竜!! 酒は買ってきたのか?!! 」
少年は、無理やり作りだした明るい声で、あるよ、と答える。
そして……。
小さい声で よく見ててね そう呟くと。
「創生。出でよ。我の声に答え、異次元から創り出せ。創 」
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