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少年の手から突然、現れたのは酒瓶。
「僕も変な力があるんだ」
悲しげに呟く少年に少女はまた、笑む。
「すごいね、あなたは物を作れる。ううん、何も無いところから物を取り出せるっていうのかな?」
少年の手を優しく包む少女。
その手は雨にぬれていた筈だったのに暖かかった。
「いや。すごく……なんか……ないよ。みんなから気持ち悪いって言われるんだ」
苦笑する少年に少女は悲しげに眉をひそめた。
そして、口ずさむ。
「人間は醜い生き物で。自分とは異なる存在を認めない。力があるものは、さげすまれ。何も無いものが愛される。誰かは試練というけれど、悲しい試練はもういらない」
少女の透き通った声。少年は聞きほれる。そこらへんのアイドルよりも綺麗な声に少年の心は切なくなる。
「だからね、私はね、もう、こんな世界からさよならしたいの」
少年の自宅の玄関先で楽しそうに言うと、くるりと踵を返し、その場を去った。
少年は追いかけようとすると、父親の叫び声でぴたりと足を止める。
「竜!! 竜!!! いるなら、返事ぐらいしろ! 」
ガタイのいい男が少年の前に立ちはだかる。
少年は、酒瓶を父親に突出し乱暴に渡すと、全速力で走りだす。
少女の瞳に光がない。それが心配で。
少女のいった「こんな世界とさよなら」を自分もしてみたくて。
何より、初めて会った異性の女の子ともっと話をしてみたくて。
少年は、土砂降りの天気の中、傘も差さずに、アスファルトを蹴り続けた。
少女は、雨を降らせている空を見ていた。
(神様って気紛れだな。お天気にしたり、雨を降らせたり。だから、きっと、神様は嫌われ者なのかな? 私と同じく)
少女は目を閉じた。
小さな公園の中央で。
曇天があたりを暗くする中、少女の周りは、橙色や赤色で輝き始めた。
「我の問いに答えよ、全知全能の神。我の世界を創れるか」
少女は、雨の音に掻き消されぬくらい大きい声で空に向かって叫ぶ。
「作れたとするならば、我の世界を創り、能力者に安穏の地を。契約の名のもとに、全ての力を解放する。 world・change!!!」
「待って!!!!」
少女を包む光が強まったその瞬間、少年は公園に到着した。
さくら公園というその公園は遊具も少なく、遊ぶ児童も多くはない。
そんな心寂しい公園の中央に彼女は裸足で立っていた。
「なに? 」
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