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彼は今日、細身のダークスーツを着ていて、いつもよりもっと素敵だ。
さっきまでチャペルで隣にいて、そっと手を握っていてくれた。
でも中庭に出てからは、マリア先生の教え子や親戚やらの女の子たちや、マダムたちの間でも大人気で、写真を撮りまくられている。
私だって、1枚も一緒に撮ってないのに。これもよく考えたら、何かおかしいんじゃないかな。
そうだよ。絶対に何かおかしい。
もう一度、冷静になって、酔いを冷ましてから、よく考えてみなくちゃ。
ワインのグラスを手に、ちょっといい気持ちで遠くの片岡さんを見ていたら、不意に男の子の声がした。
「ナギ、ちょっといい?」
「あら、アルジェント。なあに?」
「ナギ、今日の君ってとても素敵だね。そのドレス、とても似合ってるよ」
「ありがとう。あなたもスーツ姿、素敵よ」
「ああ・・・ありがとう。・・・・ねえ・・・・ナギ、前から聞きたかったんだけど」
「ええ、何かしら?」
「ナギはワタルの・・・・恋人なの?」
わ、すごくストレートに聞くんだね、アルジェント。それは私が聞きたいこと、なんだけど。
「う・・・・ん、たぶん」
「たぶん・・・・ってじゃあ、僕にもまだチャンスはあるってことだよね?」
ごめんね、アルジェント。それはどうだろう。私はいま、片岡さんの気持ちを捕まえるのに必死だから。
彼は大人で、何を考えてるかよくわからなくて、私は大変なんだよね。実は。
たぶん、チャンスは無いんじゃないかな。
私が曖昧に微笑みつつ口を開こうとしたら、『ごめんね』と言って、片岡さんが割り込んできた。
その笑顔の迫力にはアルジェントは勝てない。まあ、私も勝てないけど。
片岡さんはお酒が強くて、飲んでもいつも冷静な顔をしている。でも、すごく飲むと、ちょこっとだけ瞳が潤む。
ほら、今日もちょこっとだけ潤んでる。
彼は私に微笑んだ。
あ、でも目が笑ってない気がする。何か私、また叱られるんだろうか。
彼はくすりと笑って、すごく優しく言った。
「何、言い寄られてたの?」
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