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意を決してインターホンを押すと、凄い勢いでドアが開いた。
「…何だよ。まだ……、あ」
不機嫌な顔で出てきた戸川君は一瞬驚いた後、申し訳なさそうな顔になった。
「悪い、勘違い。……ただいま」
少し照れ臭そうに笑って「ただいま」を言うと、私の手を掴んで中に引き入れてくれた。
いつもと変わらないその仕草に嬉しさが込み上げたものの、次に感じた違和感に頭と体が一時停止する。
玄関に漂う、甘い香り。
戸川君は香水をつけない。
彼のシャンプーの香りでもない。
明らかに女性もののフローラルの香りに、スッと胸が冷えていく。
…さっき、誰か来てたの?
聞けばいいのに、さりげなく聞こうと思うと肩に力が入って、タイミングを逃した。
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