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「お前、前世は何か占ってもらったか?」
出社するなり同僚の川島が聞いてきたので、俺は素っ気ない態度で答えてやった。
「占いなんかくだらない」
「何だよ。お前は、占いに興味ないタイプか?一度でいいから、占ってもらえって。世界が変わるぞ」
川島はそう言って、俺に強く占いを勧めてくる。ハッキリ言えば、迷惑なのだが相手の気分を害するのも何なので、
「考えておく」とだけ答えた。
今、世界中である占いが流行していた。前世、つまり人として生まれてくる前の姿は何の動物だったのかを占うものだ。実に胡散臭(うさんくさ)い占いなのだろうか。どうして、こんな馬鹿らしい占いが流行したのか分からない。どこかの有名人が占ってもらったとか、某国の大統領が実は・・・など、様々な噂が飛び交うも真相は不明だ。この噂ですら、この占いを流行らせる上で流されたデマかもしれない。ただ、この占いというのが多くの人の関心を惹きつけた。具体的にやることといえば、単純極まりない。前世がどのような動物だったのかを伝えるだけだ。子供にだって出来ることだ。それを怪しげな占い師が告げるだけというのに。
前世が、その動物であったからといって、それがどうした。それが、俺の率直な意見だ。しかし、人というのは単純な生き物だ。自分の前世が百獣の王、ライオンや密林の王者、虎だと知った途端に、弱気だった人も急に強気になる。一種の自己催眠だと思うが、そのような子供だましな占いが流行の最先端になるとは、つくづく、くだらなく思えてくる。
「そうそう。私は、占いの結果、蛇だと言われたよ」
聞いてもいないのに川島は自慢気に自分の前世を俺に教えてくる。
「そうか」
俺は川島の話を聞き流しながら、仕事に没頭した。前世が蛇だからといって、何だという。蛇のようにしつこいのは前世だけにしろと言いたくなる。もっとも、川島の話を聞き流したしたところで、問題が解消されるという訳ではない。朝礼の時間では上司の占い結果を散々と聞かされ、このあとの挨拶回りでも自慢される。昼間のテレビでも、若手の芸人やアナウンサーが自慢気に話す姿を目にするようになった。占いの結果など一々、話さなくてもいいと思うのだが、話さずにはいられないのだろう。
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