1人が本棚に入れています
本棚に追加
興味がない占いの自慢を耳にタコが出来るまで聞かされた俺は仕事が終われば、憂さを晴らすように近所のバーへと逃げ込む。そこで、酒を煽り嫌なことは忘れるようにしている。しかし、最近ではそのバーですら居心地が悪くて仕方がない。
「あなたの前世は?」
「ゴリラなの?道理で逞しい身体をしているわね」
「九官鳥?素晴らしい声だわ。今度、歌でも唄ってくださる?」
バーの女達は相手の前世に合わせてお世辞を言いチップをねだっていた。昼間でさえ、耳障りな話しを散々聞かされてきた。それが、ここに来ても耳にし続ける。せっかく、嫌なことを忘れようとしているのに。これでは、いつまで経っても忘れられないではないか。
俺は客や女と距離をとってカウンター席で苛立つ気持ちを宥めるように酒を呑む。
「お客さんは占ってもらっていないのですか?」
行き付けであるバーのバーテンダーが苛立つ俺に聞いてくる。やはり、今時、占ってもらっていない人は珍しいのだろう。
「ああ。くだらないし、つまらないからな」
俺はグラスに注がれた酒を呑みながら答えた。
「しかし、今はそんなことは言っていられませんよ。前世が分からない人なんて、相手に気持ち悪がられるだけです」
「それなんだ。どうして、占いの結果一つで差別されなければならない」
俺は思いの丈をバーテンダーにぶつけた。納得できないことは、そこにもある。占ってもらわないだけで、人に嫌な顔をされる点だ。俺も昼間の仕事周りで異質な目を向けられたのを覚えていた。たかが占いので仕事の取引上では大きな影響はなかったが、相手が不快な思いをしたのはほぼ間違いないだろう。くだらない占いで振り回されるなど、本当に馬鹿馬鹿しいことだ。
最初のコメントを投稿しよう!