第1話

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 最初に断っておくが、俺は決してオネエ系じゃない。    確かにメードちっくな服を着せられて、長髪のカツラをかぶり、ご丁寧に化粧 までされているが、好きでやっているわけじゃない。  「なあ、もういいだろ?写真も撮ったし、スケッチもしたし」  「ん、あともうちょっと。これもつけてみて」  と、姉貴が差し出したのは、ひらひらの付いたヘアバンド。  「えー、まだあんの?」  俺の不本意な声を無視して、姉貴は、俺のカツラ頭に、ヘアバンドをセットし た。  「おおっ、これもいいねえ。かわゆいよ、めぐちゃん。最高。あと、写真、も 一回撮ったら終わりね」    「ちっ、まじかよ」  「あっ、ちょっとトイレ行ってくるね。待ってて」  俺は口を尖らせて、姉貴の後ろ姿に怒鳴る。  「バイト代、はずめよ」  俺は一刻も早くお役目御免になりたかったが、ここでやめたら、取れるはずの ものも取れなくなる。  とにかく忍耐あるのみ。  それでもため息が自然に出てくる。  ふと、横の壁に立て掛けてある鏡に、俺の姿が映っているのが目に入ってしま った。  おっ、可愛いじゃん。  と、ついにやけてしまったが、とたんにアホらしくなった。  これはバイトなんだ。  しかも人助け?なんだ、と自分に言い訳する。  姉貴の玲は、デザイナー志望の専門学生。  姉貴の部屋には、ソレ用のマネキンもちゃんとあるのだが、生身の人間じゃな いとわからないこともある、とかなんとか言って、あろうことか俺を使うことを 思いついたのだ。  俺は姉貴とは違って、目は二重のぱっちり、丸顔で、男としては小柄な体格の 上、そこそこ見られる顔立ちだったから、姉貴のデザインする、乙女な服が似合 うのらしい。    ま、一回二千円という高校生の俺には、ありがたい収入になるので、我慢して マネキンになってやってるわけ。  それにしても姉貴の奴、長いな。クソでもしてんのか?と思っていたら、玄関 の呼び鈴がなった。  げっ、俺は出ないぞ。ゼッタイに、だ。  知ってる奴に、こんな俺、見られてみろ、致命的だ。        
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