唇の距離 #2

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「前はもっと上の階で眺め良かったんだけどな。 まあ立地はいいだろ? セキュリティないけど、 男だから別に要らないし」 先を歩く戸川君が振り向いた。 「おい。なんでそんな後ろなんだよ。 一人で喋ってるみたいだろ」 「だって、どこに向かってるのか分からないんだもん」 上から叱られても嬉しい私は、 小走りで横に並んだ。 「コンビニだよ、お前んち側の」 週末の夜の駅前で、酔っ払って騒ぐサラリーマンの集団から遠ざけるように私の腕を引いた。 「それから送ってくからな」 …飲み直すんじゃなかったんだ。 高揚した気持ちがしぼんでいく。
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