唇の距離 #2

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駅の高架を越えて、 道向かいのコンビニに入る。 少ししおれた私は、 酔った顔を見られたくなくて、 コンビニの明るすぎる照明に 俯き加減で彼に続いた。 「ほら」 不意に立ち止まった戸川君が、 ビールの入ったカゴを私の目の前で揺らした。 「何飲む?チューハイだっけ」 「えっ?何で…」 「飲みなおすって言っただろ。 公園飲みだよ。お前んちの」 途端に元気を取り戻して笑顔で頷いた私は、気になって聞き返した。 「ずいぶん安上がりだけど、 こんなんでいいの? ご飯ごちそうになったのに」 「値段関係ないだろ。 狭苦しい店で飲むより気持ち良さそうだし」 ならもう一缶追加、 と彼はビールをカゴに足した。 「お前は一缶にしとけよ。顔赤いぞ」 「やだ、見なくていいから」 顔を覗こうとする戸川君から逃げながら、いつも飲むチューハイをカゴに足して、会計を済ませた。
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