唇の距離 #2

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週末の混雑した電車に揺られ、 中目黒に着いて改札を出ると、 壁に寄り掛かるジーンズ姿の戸川君が見えた。 「遅くなってごめんね」 駆け寄る私に気がつくと、さっきの無愛想な電話とは打って変わって、目尻だけで柔らかく表情を崩した。 「お疲れ」 ラフなTシャツ姿の戸川君を不思議そうに見る私の視線に気付いたのか、彼は自分の格好を指差して言った。 「これ?着替えて作業してた」 「作業?」 「それより先に、腹減った。 店、俺が決めていいよな?」 戸川君に連れられて入ったのは、私の家とは駅の反対側にある、看板も出していない隠れ家のような小料理屋だった。 メニューに並ぶお惣菜とは不釣り合いな若いお兄さんがカウンターを仕切っている。
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