唇の距離 #2

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何に対する「ごめん」? 彼に泣かされたことなんてない。 もしかして、私の気持ちがあからさま過ぎたのなら。 応じられない「ごめん」? 彼の言葉の意味も、空気の変化の理由も、私にはまったく理解できなかったけれど、口に出して訊ねる勇気もない。 ただ放された体が拒絶されたようで、ひどく頼りなくてやるせなかった。 「…酒、本当に弱いんだな」 私が落とした空缶を拾いあげながら戸川君が言った。 「こんなジュースみたいなもんでよく酔えるな」 さっきまでの空気を払おうとするかように、戸川君がいつも通りの口調で言った。 「今日はたまたま。でも大抵、一缶でいい気分になれちゃうけど」 私も無理に態度を繕いながら 同じように返した。
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