唇の距離 #2

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海外拠点の多さでうちの会社を選んだと、戸川君は話してくれた。 途上国でもいい、若いうちに一人で身軽に色んな世界が見たいと。 「俺がやるよ」 運ばれた料理を取り分けようとする私を手で制して、戸川君が代わりにやってくれた。 「ありがと。 …じゃ、近いうちにまた居なくなっちゃうんだね」 彼の意外に器用な手つきを見ながら、心が寂しさに染まっていくのを感じる。 せっかく夢を語ってくれたというのに、なんて私は情けないんだろう。 「いつになるか分からないけど。 でも夢だったからな」 そんな私の葛藤なんて知らない彼は、にっこりと笑った。
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