唇の距離 #2

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「お前は? 何かやりたいこと決まってんの?」 「私?」 戸川君から急に話題を振られ、 食べる手を止めて考え込んだ。 「仕事、マーケティングだろ? それがしたかった訳?」 しばらく考えた後、 私は首を横に振った。 「違うの。 実は就活の時になっても、 やりたいことが漠然として 見つからなかったの」 へぇ意外、と戸川君が箸を止めた。 「頑張ってるから、 目標があるのかと思ってた」 「大学でも一生懸命勉強はしたけど、何かしっくりこなくて。 でもね。誰にも頼らず自立したいっていうのは固くて、社会の中で自分の場所をしっかり築きたかったの」 戸川君は黙って真剣な顔で聞いてくれている。
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