第一章「与那国海底遺跡」

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『悠ちゃん。悠ちゃーんっ』  波間から差すレンブラント光線(エンジェル・ラダー)にも似た神々しい光を、水中からぼーっと見上げていた悠に、宝生(ほうしょう)美羽(みはね)からの無線通信が入った。  ダイビング中のコミュニケーション手段がハンドサインだったことなど、もう昔の話だ。二〇二六年現在は、フルカバータイプのマスクに超小型の無線機が、標準で装備されている。仲間内で周波数を決めておけば、他のダイバー同士の会話を聞かされることもない。 「美羽? 何? どうかした?」 『今、どこにいるの? あたしはね、アッパーテラスの辺りにいるんだけど』  アッパーテラス。与那国海底遺跡のほぼ中央にある幅七mほどの小広場だ。この与那国海底遺跡とは、太古の昔に沈んだ都市ではないかと言われている所だ。巨大な一枚岩で出来たこの海底遺跡には、人の手で造られたような城門跡やテラス、階段と思しき構造があるが、自然に出来たという説もあり、まだ論議が続いている。実際に潜って見てみれば、自然物にしては出来すぎている感があり、その神秘的な雰囲気から、絶好のダイビングスポットとなっている。 「僕は……ああ、星形の岩があるな。《亀のモニュメント》のとこみたいだ」  まるで星のような形に浮き出している岩に、悠はマスクを向けた。浮き出しているというよりは人工的に“切り出された”と言ったほうがいいような、大きな岩だ。
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