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巨人はずるり、ずるりと大きな岸壁の扉すら、狭そうにして這い出てくる。
悠は目の前の光景を必死に否定する。これは夢だ。これは現実じゃない、と。
そんな悠の努力も虚しく、巨人は光の当たる場所へとその姿を現した。
「えっ……?」
はっきりとそれを目の当たりにし、悠の頭は、ますます混乱の度を深めた。
遺跡のもっと深い所にまで伸びた足が、ずずん、と地響きを立てて海底に着いた。ぐん、と背筋を伸ばした巨人の頭は、海面すれすれにまで達している。全長、五〇mはあろうかという大きさだ。十階建てのビルくらいの高さがある。
それだけでも驚異だが。
ふわりと水に広がる銀色の髪。しなやかに伸びる四肢には華美な意匠の施された、薄い銀の装甲が嵌められている。人間と同じサイズにスケールダウンすれば、きっと華奢に映る体にも装甲がある。が、露出している肌の方が多そうだ。驚いた事に、その肌は柔らかそうで滑らかで、人間のものと同じに見えた。女性特有の胸の膨らみは控えめで、幼くも見える顔に吊り合っていた。
それは、装甲を身につけた、巨大な――“少女”。
人外の圧倒的存在感に当てられながら、悠に恐怖心は芽生えなかった。
その大きさを無視すれば、この巨人少女は“かわいい”としか思えなかったからだ。
巨人の少女は岸壁から外に出切ると、悠に真っ青な瞳を向けた。
そして。
「――おかえりなさい、マスター。わたしは、ルヴァは、ずっと、ずぅーっと、マスターのお帰りを、お待ちしていましたぁ……」
太陽のような笑顔で、そう言った。本当に普通に、しゃべっていた。
水中にも関わらず、その嬉しそうな声は、クリアに、はっきりと発音されていた。
悠は呆然として、ルヴァと名乗る巨人少女を見つめた。
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