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結局レギュラーに入ることもかなわず、そのまま新学期に突入した学校のグラウンドは、紅葉で赤く染まっていた。
泰子は次の大会でレギュラーに入ることを目標に、また放課後の自主練に励んでいた。
木の葉のかさかさという音が聞こえて、泰子が振り返ると、そこには練習着を着た陽平が立っていた。
「どうなさったんですか?」
この頃には、最初の悪印象は大分緩和されていた。
「君に、言いたいことがあって」
珍しく彼は語尾を濁していた。
彼はそこで一旦間をとってから、決心したように、泰子に向き直った。
「僕と付き合ってくれないか」
「はぁ…」
泰子は混乱した頭で、そういえば昔はいつも隣にいたような、入れ替わり立ち替わりの美人さんを、最近は見ないなぁなどと、のんびり考えた。
そしてやっとその言葉の意味を理解した。
「どうして私なんでしょうか?」
泰子はやっとその一言だけを紡ぎだすと、陽平の言葉を待った。
しかし、彼は頬を今沈みかけている夕陽のように朱に染めて、なかなか返事をしない。
しばらく沈黙がその場を支配した。
やがて彼は小さな声で言った。
「一生懸命練習している君の姿が前から気になっていたんだ。まさかこんなに気の強い子だとは思わなかったけど。
そして初めにあった時に、君から言われたあの言葉で僕の目が覚めたんだ。
どこか調子に乗っていたのかも知れない。
初心に帰ることなく、僕はただ数だけの練習をこなしていたんだ。
君を尊敬したよ。そしてもっと知りたくなった。
そして知るたびに、好きになったんだ」
「だから」、彼はもう一度、俯いていた顔をあげた。
「僕は君が好きだから…。僕と付き合ってくれないか」
「…はい」
考えるよりも先に返事をしていた。
泰子の答えに彼は「ほぅ」と安心したような声を漏らした。
「自分から告白するの、初めてだったんだよね」
彼はまだちょっと赤い顔で笑った。
「だから、泰子に断られたらどうしようかと思った」
「あの、泰子って…」
「もう彼女なんだから、呼び捨てにしちゃ駄目?」
泰子は、傍から見たら私も楓の葉のような赤い色をしているんだろうな、と思った。
そして、泰子はその日から、新井陽平の彼女となった。
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