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泰子はそういった嫌がらせを受けているということを、誰にも知らせたがらなかった。
誰かに言った時点で、嫌がらせに屈したことになるのではないか、という思いが強かったからである。
だから辛くても、なんとか一人で解決しようとしたし、悩んでいる姿を見せようとはしなかった。
同僚の嫌がらせがエスカレートしていったのはこういう理由からだろう。
上司から気に入られている先輩が、上司にあることないこと告げ口し始めたのもこのころである。
こうして泰子は徐々に逃げ場を奪われていった。
ある日泰子は、先輩が会議に使う重要な資料を、先輩の机の上に置いておくように、信頼していた同僚から頼まれた。
しかし、置いておいたはずなのに、なくなっていた。
もはや、誰も信用してくれなかった。
同僚は泰子を責め、尊敬していた先輩や、T君までも、泰子のことを白い目で見るようになった。
その日から泰子は出勤できなくなった。
このままだと負けだと思い、行こうと思っても、胃が痛むのだ。
特に朝は食欲がわかず、頭痛や耳鳴りやめまいもする。
会社での出来事を思い返すだけで、具合が悪くなる。
泰子にはそういった自分の症状が仮病に思えた。
そうして当の泰子すら、泰子を信じてはいなくなった。
泰子は自分を責めた。
そうするたびに、また胃が痛むのだ。
もう生きていく価値など無いのではないか。
そういう考えが頭を支配する。
もしかしたら、あの日先輩の資料をなくしたのは本当は自分だったのかもしれない。
そう思うと自分が怖かった。
もう生きる価値など無い。
そう思った時、泰子は睡眠薬を大量に飲むという方法を思いついた。
ちょうど医者から睡眠薬を貰っていたのもあり、なんのためらいもなく、実行したのだ。
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