第5話

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クリニックの入口に立つと、自動ドアがすっと開き、すぐに受付がありました。 中は外見からは想像できないほど明るくて、ホテルのロビーのようなゆったりとして作りでした。 穏やかな照明に、落ち着いた絨毯。壁にかかる絵画はパステル調であたたかみを感じるものでした。 受付で名前を告げ、問診票の記入です。 月経周期や妊娠歴、これまでの不妊治療歴を書く欄がありました。 年齢を書くところで少しだけ躊躇しましたが、子宮筋腫のことなども正確に記入しました。 問診票と引き替えに簡単なパンフレットをいただきました。 「不妊治療について」の記述と、クリニックの治療方針が書いてあるものでした。 待合室は広く、窓から外の景色を見ることができました。 ウォーターサーバーやファッション雑誌も置いてありました。 広い待合の中には5名ほどの女性が待っていました。 30代~40代ぐらいでしょうか。誰もがややうつむき加減で、じっと手元の雑誌や書物に目を落としていました。 皆、それぞれがずいぶんと離れたところに座っていました。 男性、子供はいませんでした。 「二人目不妊」などの患者さんもいるのだとは思いますが、他の患者さんに配慮して、子連れでの来院は禁止されているようです。 内科とか、他の病院ではたとえ病気といえども少なからず患者同士の会話や雑談などがあるのに、ここの病院の待合室の人たちは完全に無言でした。 笑っている人は一人もおらず、それどころか目を合わせることすら拒んでいるように思えました。 誰もがどこか後ろめたい、そんな雰囲気に包まれていました。 そういう私自身、同じオーラを発していたのだと思います。 私も他の方とは離れた場所に座り、呼ばれるのを待ちました。 順番が来ても、名前は呼ばれません。 プライバシーへの配慮なのでしょう。 ここのクリニックでは、すべて番号で呼び出しが行われます。
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