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稔は、何も言わない。
百合が蓮を殺すためにここに来たのだと言っても。
ただその整った面立ちから表情を排して、百合を見つめ続ける。
この部屋のどこかに吏沙は控えているのだろうか。
百合はふと、そんなことを思った。
いるはずだ。
敵と分かっている相手に一人で対面しようと思うほど、稔だって馬鹿ではない。
それとも勝てると思っているのだろうか。
当代最強の名を持つ、鮮血の女王を相手にして。
「でも、私にはできなかった。
どうしても、蓮を殺したく、なかった。
……もしも今、私が最初の『百合』と同じ選択を迫られたら、私はきっと喜んで自分の胸に刃を突き立てる」
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