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なんとなく、一歩踏み出したい気分になっていたんだ。
それはきっと、ソロでのダンジョン攻略を極めつつある俺も実はかなり人恋しくなっていたことが原因だろう。
決して、「hitoka」というキャラネームに反応したわけではない。
あの時相手をしてあげていれば、という後悔からくる行動などでは、断じてないのだ。
『良ければお手伝いしましょうか?レベル上げとか、クエスト進行とか』
俺はほんの出来心で、中身がいるか分からない「hitoka」に連続でチャットを打った。
ダンジョンに付き合ってくれと言ってくれる仲間もいなければ、これ以上レベルを上げることもできない俺だ。
オンラインゲームの奥深さ故、この世界でまだまだできることは多いが、一人で熱中できることはもうあまりない。
初心者のお手伝いという、実に俺らしくない行為も、たまには経験してみたっていいだろう。
返事がすぐに来るはずがないと思って、俺は再び週刊少年誌を手に取った。
読みかけのページを探してパラパラ捲る。
粗い再生紙に親指が擦れる音が数回室内に響いた、その時。
チリン。
と今日二回目の鈴の音をイヤホンから聞き、心臓が飛び出そうな気持ちで慌ててチャット欄に目を戻す。
『お願いします。始めたばかりでよくわからないんです。』
これが、俺ことのんびり型ベテランプレイヤー「レート」と、新人プレイヤー「hitoka」によるコンビ結成の瞬間だった。
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