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「未来は、変えられないよ……っ!!」
自分から引き離そうとした久那が、自分の傍にいる。
さらにこれから何をしようとしているのか気付いた沙希は、校舎の中に引きずり込まれながらようやく反論を口にした。
久那の左手から絶え間なく流れ落ちる雫が、やっと沙希を現実に引き戻したのだ。
「私が視る未来は変わらないの……っ!!
久那くんだっていつも見てきたから、知っているでしょっ!?
だから手を離して、私から離れてっ!!
明日の夕方になったら、これどころの怪我じゃ済まないんだよっ!?」
「未来が変わらないなら、俺が沙希と一緒に落ちていく未来だって変わらない。
変わらないなら、一緒にいてもいなくても同じだ。そうだろ?」
「私から久那くんが離れたら変わるかもしれないものっ!!」
「沙希、さっきから自分が矛盾したことばかり口にしているっていう自覚、あるのか?」
「そんなの……っ!!」
「諦めろ」
暴れる沙希を抱えて何とか一階分階段を下りた久那は、廊下の壁に背を預けながら沙希の体を解放した。
捕まえていた腕を離しても、沙希は久那を睨みつけたまま逃げようとはしない。
自分からは『近づくな』と言うくせに、自分から積極的に逃げようとはしない。
この矛盾に、沙希自身は気付いているのだろうか。
「俺は、沙希の死ごと未来を変えることを諦めない。
だから沙希、俺から離れることを諦めろ」
血を滴らせる左手を右手できつく握りしめて止血しながら、久那は沙希の瞳を真っ直ぐに見据えた。
どんな時でも久那の視線から逃げなかった沙希が、初めてひるんだように視線をそらす。
「それとも沙希は、俺から離れたいのか?」
そして続いた言葉には、細い肩が震えた。
「これを契機に、潔く、綺麗な形で俺から離れていきたいのか?
心の底では俺のことを疎ましく……」
「そんなこと、あるはずないじゃないっ!!」
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