ー水底(みなぞこ)に沈めた華ー 

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 久那達が下りてきた階段を上って現れたのは、沙希の未来視に姿を現した二人の掃除人だった。  二人とも今までごく普通の生徒として授業を受けていたのだろう。  掃除人が纏う漆黒の仕事服ではなく、久那達と同じ制服を纏っている。 「……わざわざ、沙希を殺すために年単位で潜入捜査をしていたんですか?  遠宮先輩」  名乗る前に名前を言い当てられたというのに、遠宮龍樹の顔に動揺はなかった。  無表情に近い面倒臭そうな顔で久那と沙希を眺め、表情より雄弁に『面倒だ』と告げる声で久那の問いに答える。 「たまたまだ。  そこまで手の込んだことをするほど、掃除人(俺達)も暇じゃないし、そこまでするほど、赤谷(あかや)沙希は重要人物じゃない。  この人選だって、一番近場にいる掃除人が俺達だったっていう、適当極まりない理由だ」 「たまたま、掃除人がこの学校に二人もいたと言うんですか?」  久那は確認するように、遠宮龍樹の背後に立つ鈴見綾(あや)にも視線を向けた。  遠宮龍樹が唯一傍にいることを許す、かつて同じ家で生活していた幼馴染。  遠宮龍樹がいつから掃除人をしているのかは分からないが、鈴見綾が『リコリス』に所属しているところから察するに、もしかしたら遠宮龍樹が鈴見綾の実父のところに養子に入った経緯には、その辺りのことが関係しているのかもしれない。  通りで常人とはかけ離れた遠宮龍樹が、鈴見綾の存在を許しているはずだ。掃除人で相方関係にあるのだから、遠ざける理由がない。 「そうだよ。  私達がここにいたのは、本当にたまたま。  私なんて指令が来るまで、あなた達の顔も名前も知らなかったんだから」  栗色の髪をツインテールにして長く垂らした鈴見綾は、ごく普通の女子高生のように久那に微笑みかけた。  だがその手には、しっかりと拳銃が握られている。  そもそも掃除人が高校生などという年若いケースは珍しいはずなのだが、鈴見綾も遠宮龍樹も妙に場慣れした雰囲気を醸し出している。 「重要人物でないのであれば、片付け者リストの最後に回しておいてもらっても結構なんですけど」  おそらく、二人とも掃除人になってから相当の場数を踏んでいる。  自分と同年代でも、新人ではない。
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