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そのことを確かめ、久那は慎重に言葉を繰る。
この場で殺されるつもりなど毛頭ない。
「重要人物ではないが、ほっとくと面倒だって話らしい」
「わ……私、『リコリス』の邪魔なんて、しません」
久那を庇うように前に出た沙希が、震える声を張り上げて遠宮龍樹を睨み付ける。
自分が死ぬ未来に諦めの姿勢を見せていても、今ここで殺されるつもりは沙希にもないらしい。
遠宮龍樹は、沙希の声を受けて初めて、沙希の方へ視線を投げた。
沙希を殺すために現れたはずなのに、遠宮龍樹は、『お前、いたのか?』とでも言いだしそうな目で沙希を見ている。
「私の未来視は、私に関することしか視えません。
先輩達が危惧するようなことなんて何も……」
「悪いが、何をここで言われても困る」
態度はどこまでも投げやりなのに、沙希の言葉を撥ね退ける声はどこまでも冷酷だった。
「俺達は上の決定に従って動くしかない、一掃除人にすぎない。
だから、俺に何を言われても困る」
「そうでしょうか?」
だが、沙希がそれに怯むことはない。
「私に、視えていないとでも?」
沙希は、この未来を視知っているのだから。
沙希の言葉に、ほんの一瞬だが遠宮龍樹の瞳が揺れる。
それを見逃す久那ではない。
沙希が意味もなくカマをかけるはずがないと知っていた久那は、沙希の手を取ると廊下の奥へ身を翻した。
「綾っ!!」
遠宮龍樹の叫びを引き裂くように銃声が轟くが、弾丸は久那達には当たらない。
久那の隣を走る沙希が、久那の手を引いたり押したりして微妙に位置を変えているせいだ。
「この奥は突き当たりだ。落ち着いて狙え。
お前なら一発で仕留めれる!」
遠宮龍樹の言葉に嘘はない。
ここは校舎の四階で、この奥は突き当たりだ。
窓から飛ぶ以外に逃げ道はないが、窓から飛べば命はない。
奇跡を願うには高さがありすぎる。
「久那くん」
だから、久那は奇跡を願わない。
だが、命を諦めるつもりはもっとない。
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