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沙希の声にわずかに顎を引いて答えた久那は、突き当たりの窓の前に設置された大きな白い箱に手をかけた。
その間に、沙希が大きな窓を全開にする。
「……っ、たっちゃんっ!!」
鈴見綾の悲鳴が遠宮龍樹を呼んだ時、すでに久那と沙希は窓から身を躍らせていた。
緊急避難用の簡易滑り台の中を通り抜け、いささか乱暴にグランドに着地する。
白い布からはい出すと、下校途中だった生徒達がポカンと足を止めて久那達に見入っていた。
だが久那にも沙希にもそれくらいの未来は視えている。
「沙希」
「うん、大丈夫」
久那は沙希の手を取ると、真っ直ぐに校門へ向かって走り出した。
途中で一度校舎の方を振り返ると、四階の窓から鈴見綾が身を乗り出して拳銃を構えているのが見えた。
だが隣に並んだ遠宮龍樹がすぐにその拳銃を下げさせる。
この距離を小さな拳銃で埋めることはできないし、そもそも掃除人は隠密義務を負っている。
掃除人は任務で人を殺しても法で裁かれることはないが、人目のある所で仕事はまずしない。
それが分かっていたから、久那は遮蔽物がないにもかかわらず、真っ直ぐにグランドを駆け抜けることにしたのだ。
掃除人二人を残して校舎は茜色に染まっていく。
それは同時に沙希が殺される未来がやってくるまでに、あと二十四時間しかないことを久那達に突き付けていた。
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