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久那のことは好きだが、沙希はこの家を好きにはなれなかった。
未来視という、一般人からかけ離れた力を持つ沙希だが、家族はごくごく一般的な生活を営んでいる。
家に帰れば父がいて、母がいて、三つ年下の妹が一人いる。
毎日顔を合わせて、一緒にご飯を食べて、何でもないことで泣いて、笑って、時に怒られて。
沙希はそんな家で、生きてきた。
だから、沙希の感覚で言えば、久那の家族は『家族』ではなく、ただの『同居人』だ。
アパートの隣人くらいの感覚かもしれない。
そんな現実が悲しくなるし、そんな現実を当然と受け止めて悲しいとも思わない久那を、寂しく感じる。
……久那くんにとって、私はどんな存在なんだろう?
沙希は時々、そんなことを思う。
久那にとって沙希は、家族みたいにいてもいなくても同じような存在なのだろうか。
もしも未来が変わって、久那だけ生き残って沙希だけ死んだら、久那はいつか、いたかいなかったか分からなくなった兄弟のように、沙希のことも忘れていくのだろうか。
そんなことを思うと、胸が痛い。
もしかして、久那にとって沙希の死は、悲しむほど大きな出来事ではないのかもしれない。
忘れてほしくない。
だけど、悲しませたくない。
そんな沙希の葛藤が無意味なほどに、久那の中で沙希の存在はちっぽけなものなのかもしれない。
「……ねぇ、久那くん」
沙希が、久那の未来だけでも変えられるかもしれないと感じたのは、久那が被弾する光景が視えなかったからだ。
だからもしかすると久那は、今のまま事が進んでも生き延びられるかもしれない。
だが沙希には、もう未来がない。
これはもう確定してしまっている。
久那がどう足掻こうとも変わらない。
だから沙希は、ずっと口にできなかった言葉を初めて口にした。
「久那くんにとって、私って、どんな存在なのかな……?」
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