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「長谷久那くんに会いたいんだけど、このクラスだったかな?」
敵が動いたのは久那の予測通り、朝のショートホームルームの後だった。
「いちいち白々しいんじゃないですか? 鈴見先輩。
俺がここにいることは、当然知らされていたんでしょう?」
見知らぬ年上の女子生徒の来襲に、クラスメイトが一瞬ざわつく。
だが久那がそんなクラスを一瞥すると、ざわめきはすぐに納まった。
ひそひそと何事かを言いかわす声は消えないが、何を言われていようとも今は気にするだけの余裕がない。
「ここじゃ目立つから、ちょっと外に出ようか?」
「その誘いに、俺が乗るとでも?」
掃除人は隠密義務を負う。
だから人目がある所では仕事はしない。
あの二人は、ここへは本当にたまたま通っているだけだと言っていた。
その言葉を鵜呑みにしたわけではないが、頭から否定するだけの証拠もないのが現状だ。
だが仮に二人の言葉を真実だとするのであれば、彼らはここではごくごく一般的な生徒として振る舞っているということになる。
掃除人という身分を隠すためにその事実を伏せてここに通っているのであれば、学校側は二人が掃除人であることを把握していないということだ。
学校側に掛け合って事実を隠蔽するという手段が取れない以上、二人は学校関係者の視線にさらされている間は久那達に手を出せない。
だから久那と沙希は、今日もあえていつも通りに学校に来ている。
授業に出ている間は、少なくとも安全だと踏んだのだ。
もちろん、向こう側がそんな状況にいつまでも足踏みしていてくれるとは思っていなかったが。
「そんなに警戒することかな?
ここには私一人しか来ていない。
私一人に、君が倒せるとでも?」
「挑発にも乗りませんよ。
……あなたの経歴は、調べさせてもらいました。
相方である遠宮先輩の活躍の陰に隠れてしまって、あまり重くは受け止められていませんが、あなただって一般人の俺から見れば十分脅威です。
自殺行為は、したくありません」
「調べたとか、随分軽く言ってくれるんだね」
鈴見綾は、久那の言葉に苦笑した。
教室の中から見たら、とてもじゃないが生死の駆け引きに繋がる話をしているようには思えないだろう。
「それに、一般人? 情報屋一族、長谷の筆頭に名を連ねる君が?」
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