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「はい! 任せてください!!」
鈴見綾は二コリと笑顔を見せると、教室を後にした。
体がまだビクビクと痙攣している久那に抵抗する手段はない。
「掃除人は指令が下された人間しか殺せない。
無秩序に殺せば大義名分が立たなくなるから」
知らなかったの? 長谷家の筆頭さん、と鈴見綾は涼やかに笑う。
久那の腕を取った鈴見綾の手の袖元には、チラリとスタンガンの先端が覗いていた。
「私は過去にスタンガンを使ったことなんてない。
だからあなたは、こんなことをされるなんて読めなかった。
他の掃除人も、スタンガンなんていうまどろっこしい物は使わないし」
久那は過去から未来を見る。
不測の事態を予測するために幅広いデータを集めるように心掛けてはいるが、今回は相手の方が一枚上手だったようだ。
久那は調べがつくだけ他の掃除人の武器と攻撃パターンも調べたが、確かにスタンガンの使用事例はなかった。
だからこんな風に、生かさず殺さず攻撃されるとは予測していなかった。
「ま、さっきの脚本も今の説明も、全部たっちゃんの受け売りなんだけどね」
保健室に行くには階段を下りなくてはいけない。
保健室に行く気など毛頭ないはずなのに、鈴見綾は階段へ向かって廊下を折れた。
一限目が始まった今、階段を使おうとする人間は一人もいない。
「学年首席の頭脳って、本当に侮れないよね。ね? たっちゃん」
授業中にだけ存在するエアポケット。
そこに立っていたのは、あの面倒臭がり屋な掃除人だった。
「交代だ、綾。ご苦労さん」
肩に鞄を二人分かけた遠宮龍樹は、背を預けていた壁から一歩踏み出しながらヒラリと鈴見綾に手を振る。
「大根役者なお前がやって上手くいくかと心配していたんだが。
何とかなったみたいだな」
「だったらたっちゃんが出向けば良かったのに」
「俺が行ったら、こいつは戸口にさえ出てこないぞ」
「たっちゃんがそう言うならそうなんだろうけどさぁ」
「まぁな。先読みは長谷の専売特許じゃないってことだ」
鈴見綾の前に立った遠宮龍樹が優雅に久那の方へ手を伸ばし、その傍らにある鈴見綾の袖口からスルリとスタンガンを抜き取る。
「残念だったな、『未来を見る少年』」
再び走った衝撃とともに、久那の意識は完全に落ちた。
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